「物語を引き受ける」ということ

大きな発表があった。正直まだ実感がないが、今に至るまで彼のことをどう考えていたか、しっかり書き記しておこうと思う。

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デビュー発表当時は、正直彼の存在を受け入れることができなかった。なぜKingとPrinceが一緒にデビューするんだ、それぞれがデビューしたほうが良いと思っていた。“じぐいわ”の売り出し方、平野・髙橋・岩橋・神宮寺の4人の交友関係の築き方が、当時の自分からするとあまり受け入れられるものではなかったからだ。時々コメントがネット上で燃えていた(燃やされていた)ことも「Bounce To Night」等のパフォーマンス時の雰囲気も、あまり好印象ではなかった。自担とさほど仲が良くないようなのも、勝手に「そりゃ合わないよね」と自分を納得させる材料にしていた。

しかし、2018年8月12日、横浜アリーナまで観に行ったデビューコンサートでそういった先入観を自ら修正することになる。当時のメモを引用する。

バックステージに紫・ピンク・水色のスポットライトが当たってて、それが青い光となって、バックステージからメインステージ側に向かって通路ステージが段階的に光ったのが良かった。素敵な演出。なんかこういうのどこかで見たような。こういう演出ができるのはすごい。エモエモ。

かなり印象に残ってたこの演出は、彼が発案したものと後から判明した。メンバーカラーを使う演出というのは愚直といえば愚直だが、その愚直さに力を与えるだけの空気感があの場所には漂っていた。ああ、ここまで読んだうえでの愚直さなんだと心底驚いた。

いつもは「えー現実的じゃないー」と思いがちな岩橋くんのコメントだけど、「最高の奇跡を起こしましょう」というの言葉は噛み締めたい。(原文ママ)

少年隊や光GENJIを信仰しているだけに、ジャニーズにはあくまで永遠とか夢とか希望とかそういった理想を描き続けてほしいという願いがあり、その点デビュー曲「シンデレラガール」はギリギリセーフのラインという認識だった。曲中にある彼のソロパート「ずっとそばで」はまさに永遠を歌う言葉だったが、この言葉に説得力を持たせられるのは日頃から物語を引き受けようとする人が歌っているからに違いなかった。

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デビューコンサートから間もなく、彼が休養に入った。キンプリは5人体制になって以降、「シンデレラガール」とも異なりリアリズムを強く感じさせるような楽曲を多くリリースするようになっていた。コロナ禍はそれに追い打ちをかけ、2021年現在はキンプリが「SMAP以後(≒“1995”以降)」の文脈に収まっていってしまっていると感じている最中だった。

また、ジャニー喜多川が亡くなった後、その偉大さは「バカバカしいほど真っ直ぐなものを信じ続けて良いと伝えるショーを作っていた」点にあるとする言説に賛同するようになってからは、(今キンプリにない)上述の愚直さを嘘っぽいとバカにする気持ちが自分の中にあり、それこそまさにジャニー喜多川の志向する「永遠の少年」性を妨げるものかもしれないと気づいた。そして、この気持ちをできるだけ小さくしようと努めていく中で、彼のことを徐々に受け入れられるようになっていった。

思い返せば、King & PrinceがジャニーズJr.だった頃には、自分が主に応援していたMr.KINGの曲にはあまりハマらずに、理想を描くPrinceの曲のほうに魅力を感じていた。実際、King & Princeの初期楽曲の系譜はPrinceの楽曲の延長線上にあると言い切って良いと思う。

Princeの曲の代表格と言ってもいい「Prince Princess」のテーマを提示するこのフレーズも、彼のソロパートだった。これもまさに愚直であるが、愚直であるがゆえに鮮烈な光を放つ言葉である。

みんなこの星のPrince Princess

この他にも、少年隊メドレーを選曲するなど、Princeは自覚的にジャニーズの王道を継ごうとしていた。後に続くKing & Princeの「物語の中の王子様」感も、その大半が彼によって担保されていた。しかし、そういったことに気づくのがあまりにも遅かった。

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今年に入り、うつ病になった自分にとって彼は大きな希望になった。彼の言葉選びが時々危なっかしかったのも、このような状態になる直前の自分の言動に心当たりがありすぎたから、余計感情移入が進むようになった。

今になって気づいたが、彼がいかにアイドルとして自分の希望になり得るかという可能性について、あまりにも見過ごしていた部分が大きい。嫌いだと思っていた人ほど恐ろしいほどに好きになってしまうというのはこのことなのかもしれない。

彼は3月末をもってグループを脱退する。これからは、彼のことを指して「一度休養に入ってもまた再び同じ場所に帰ってくることができる」と言うことはできなくなってしまうかもしれない。それでも、彼がアイドルとして最後まで物語を引き受け続けた事実は揺るがない。

メンバーを含め、たくさんの方々が応援し続けて待ってくれているにも関わらず、自分の心の弱さから、皆さんとの約束を果たす事が出来なくなってしまった事を、本当に申し訳なく思っております。

「心の弱さ」という言葉選びは、それだけ理想を高く持っていることの表れである。現状を肯定せず、常に理想に向かって行くやり方は、危うい状態になってしまったら捨ててしまいたくなるものであり、また周りもそれを捨てるように促してくるものだが、彼はアイドルとしてのコメントで最後までそれを捨てなかった。

ここまで大きく成長させてくれて、僕の生きる意味を教えてくれた、ジャニーさんにもたくさん感謝しております。ジャニーさんと出会ってなかったら僕はいませんでした。メンバーにもファンの皆さんにも会えなかったと思います。ジャニーさんは僕にとって、お父さんのような存在でした。たくさん怒られ、たくさん褒めてくれ、最後の最後まで心配をしてくれていました。ジャニーさんの教えてくれた事は芸能界問わず、社会に出ても大切な事ばかりです。

ジャニー喜多川へのコメントでも、「生きる意味」「お父さんのような存在」「社会に出ても大切な事ばかり」といった言葉選びに彼らしさが光る。

この先、新しい道に進みますが、僕とメンバー、そしてティアラの絆は、この大きな空を通して永遠に繋がり続けると思います。またこの先、大きな壁が立ち塞がる事もあると思いますが、その時は自分自身に『大丈夫』と言い聞かせ、1人の人間としてより強くなりたいです。そして今後、病気が治った時はもっともっと笑っていたいです。

この「大きな空を通して永遠に繋がり続ける」というフレーズは、ずっと盟友だったメンバーのひとりが一部作詞した「Laugh &…」という楽曲に影響されたもののように思わせる。

僕らはいつでも 同じ空を見上げて
いつまでもLaugh & Laugh
終わらない歌を歌い続けよう

僕らの空 繋がってるなら
どうか伝えて欲しい
不器用なLaugh & Laugh
自分がもし浮いて見えていても
大丈夫さ どんな日もきっと
寄り添うこの声は
世界中の誰より ただ隣の君へと
笑顔届け

これが意図的なものだとしたら、歌詞を公式リリースで引用するというその行為に凄まじいアイドル性(物語を生きるものとしての覚悟)が宿っていることはもはや言うまでもないが、もし意図的でなかったとしても、最後の最後までその盟友の絆を見せられるその偶然を引き起こすだけのアイドル性が彼にあったということを如実に示しているように思う。

ジャニーズの場合、「カッコいい」形式を見せる他事務所のアイドルとは異なり、自らの役割を自覚して「カワイイ」「ダサい」路線をやり切るそのプロフェッショナル性にかっこよさの本質が表れる、とされている部分が大きい。彼のカッコよさとはまさにそれだった。

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最後に、ファンへのメッセージの部分を引用する。

ティアラの皆さん、ずっと僕の事を好きでいてくれてありがとうございました。常に心配をかけてしまったけれど、どんな時でもティアラの皆さんの気持ちはすごく伝わっていました。約11年間応援してくれて本当にありがとうございました。新しい道に進んでも僕はティアラの事が大好きです。

「ティアラ」というファンネームは、彼がデビュー曲発売記念イベントの場で命名した名前で、グループ名ロゴの「&」の部分にかぶさっている王冠がその由来だ。男性ファンに対する「オスティアラ」という命名も含め、当時は正直複雑な部分もあったが、ファンは別々のユニットとして活動していた時期もあるKingとPrinceとを再び結びつけた存在であり、架け橋でもあるという趣旨を含意したといえるこの命名は、今になってしっくり来るものになった。

「ファンと共に目指す理想に向かって行く」「奇跡を起こす」「約束を果たす」アイドル像に忠実に生きることを決して諦めなかった彼の姿勢は、彼自身が「Jr.大賞」で前人未到の5連覇を果たしたという功績とともに、ジャニーズ史に刻まれるはずだ。この姿勢をやめるようにも受け取られかねないこの決断に至るまでには、自分のイメージ・印象に対して敏感な彼だからこそ迷う部分もあったと思う。しかし、報告が長期的にできないその状態自体を避けようとし、進むべき道について決断を下し、最後まで物語性を持たせた文章で締めくくるスタンスは、これまでの彼と何ら遮断されたものではなく、むしろはっきり一貫したものである。

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「アイドル」の定義は難しい。舞台に立っている者だけがアイドルとも限らない。彼がKing & Princeのメンバーとして最後に発表したこのコメントは、舞台から降りた彼もまた「アイドル」であり続けるだろうという期待を我々ファンに抱かせてくれるものだった。

King & Princeは6人組のアイドルグループである。それは今後も変わらないし、決して「普通」には成り下がらずに、ファンに託された物語を引き受け、かつてジャニー喜多川がPrinceに対して言った「ボロボロになってもダメダメになっても君たちは立ち上がれるよ」の言葉の通りに生きるだけの覚悟が、彼にはきっとあるように思う。

そんな彼の幸せを心から願うとともに、これからも彼がファンに与えてくれた「6人を繋ぐ架け橋」という役割・理想がファンのコミュニティーの中で大切にされ続けることを祈って、この文章を締め括りたい。

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